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2018.09.10

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「企業と人財」連載 第1回 社内で講師を育てる計画をする


2018年4月号表紙
「企業と人材(産労総合研究所)」2018年4月号掲載
TRAIN THE TRAINER Mini Guide 社内でプロ講師を育てるトラの巻 第1回 社内で講師を育てる計画をする

 

社内講師育成の仕組みが機能しない理由
「社内研修を自前で行いたい」
教育内製化に注目が集まっています。以前は、売上や利益など業績が悪くなると、教育研修費用を削減するために外部講師や外部研修会社に依頼・発注することをやめ、社内で研修を内製化するといった話をよく聞きました。しかし最近では、自社独自のスキルを伝承したい、さらには組織体制づくりのために、自社独自の社員教育をしていきたいという観点から教育の内製化を検討しているという声が、多く聞かれるようになってきました。

 

このような教育の内製化には、次のような課題が考えられます。

 

・社内講師と外部講師のどちらが効果的なのか?
・どのような人材が社内講師に向くのか?
・社内講師の基本的なスキルは何か?
・どうやって社内講師を教育すれば良いのか? etc

 

これらの課題に応えるため、この連載では、外部講師だけに頼るのではなく、社内で講師を発掘し、育成するために必要なことを紹介したいと思います。今回より6回に分けて解説していきますが、全体の構成は図表1にあるとおりです。

 

スクリーンショット 2018-09-06 18.07.49

 

具体的な実務も紹介しながら、社内でプロ並の講師を育成するポイントをまとめましたので、ぜひ活用してみてください。連載初回となる今回は、「社内で講師を育てる計画をする」がテーマです。

 

私の会社では、企業の人材開発戦略構築やリーダー育成、組織開発に関するコンサルティング、教育研修の企画立案などを行っていますが、よく企業のマネジメント層や人材開発の担当者から、「外部の研修講師のようなプロフェッショナル講師を、社内でも育成したい」という相談をいただきます。そうしたときに、手っ取り早く他社で社内講師をやっていた経験者を採用することによって内製化を実現する企業もあれば、それなりに時間をかけ、社内で教育をして講師を育てる企業もあります。「社内講師がいる」という会社は数多くありますが、計画的に育成し、社内の教育研修で継続的に成果を出している企業は少ないのが現状だと考えます。

 

それでは、社内講師の仕組みが機能している組織と、機能していない組織の違いは何でしょうか。
・社内講師を育てられる人がいるか/いないか
・社内講師を育成する仕組みがあるか/ないか
・社内講師の目的や役割が明確か/不明確か

 

以下、それぞれについて考えてみましょう。

 

(1) 社内講師を育てられる人がいない場合
社内に講師育成ができるトレーナーがいない場合は、外部の専門家に依頼する方法があります。しかし、一時的に数人を育てることはできても、継続的に育てる仕組みづくりも同時に行わないと、はじめはうまく育てられたと思っても、次第に社内講師の質や数の問題が生じて、機能しなくなることがあります。
したがって、社内講師を育てるには、同時に「社内講師を育てる人を育てる」ことが重要です。それによって、中長期的に人材育成の仕組みとして機能させることができます。

 

(2) 社内講師を育成する仕組みがない企業の場合
では次に、講師育成の仕組みがない企業の場合は、どうすればよいでしょうか。専門性をもった講師トレーナーが行う講師教育の仕組みを「TRAIN THE TRAINER(トレイン・ザ・トレーナー、TTT またはTOT)」といいます。講師トレーナーは講師の経験があることが望ましいですが、そのようなトレーナーが社内にいない場合は、「教え方のスキル」や「教えるための専門性」を学んだうえで、内製化を進めます。具体的な教え方の仕組みづくりは次回に紹介したいと思います。

 

(3) 社内講師の目的や役割が不明確な場合
最後に、社内講師を活用する目的や社内講師の役割が不明確なままである場合は、自社における人材育成の目的や方針に従って、社内講師の目的、役割、責任などを明確にします。そして、どのような人材が講師に適任か、社内から探し出す計画や育成する計画をつくることから始めます。

 

育成計画は5W1H で考える
まずはじめに、社内講師育成の仕組みをつくり、継続的に機能させるための社内講師育成計画を策定する方法についてお伝えします。社内講師育成計画は、5W1H で考えると整理できます。これらについてしっかり整理ができたら、大まかな計画を立案します。
・Why(なぜ育成するのか)
・Who(だれが育成するのか)
・Whom(だれを育成するのか)
・When(いつからいつまで育成するのか)
・What(何を教育するのか)
・How(どうやって育成するのか)

 

以下では、それぞれについて、詳しくみていきます。
なお、大まかな計画といいましたが、詳細に計画してはいけないという意味ではありません。育成計画の策定に時間をかけても、実際には対象者の経験や能力によって差が出てしまうものです。したがって、計画に時間をかけるよりも、まず大まかな計画を立ててスタートし、育成を行うなかで、手直ししながら計画のレベルを上げていくことをおすすめします。

 

(1) Why(なぜ社内講師を育成するのか)
まずは、社内講師を育成する意味や、背景を整理しておくことが必要です。社外の専門家に講師を依頼する場合もあれば、社内でコストや時間をかけて育成したほうがよい場合もあります。社内講師を育成するには時間もコストもかかります。それでも育成するのはなぜか。継続的に仕組みをまわしていくためには、背景となる情報を整理しておく必要があります。具体的には、次のような問いについて検討してみるとよいでしょう。
・ 社外講師だけでなく、社内講師をつくる理由は何か?
・ 社内講師は、だれのためにつくるのか?
・ 社内講師がいることのメリットは何か?

 

自社の状況を理解したうえで、社内講師を育成する背景を考え、何のために社内講師を育成するのかを検討します。つまり、社内講師を育成する目的を明確にするのです。一般的には、社外講師は専門性が高く、必要に応じて講師や講義を選べたり、コストコントロールも可能です。一方、社内講師は、社内の専門用語や、社内文化を理解しているため、事前に参加者の分析をしておけば、参加者の理解が得られやすくなり、より高い教育効果が期待されます。それぞれの特徴は、図表2にあるとおりです。

 

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このようなことを踏まえて、社内講師をどう活用するかを検討します。社内講師と社外講師のどちらがよいかというだけではなく、対象者や時期、必要な教育内容によっては両者の組み合わせも効果的です。社内講師の仕組みを入れる目的を明確化してください。

 

(2) Who(だれが育成するのか)
現状、社内講師を育成する人が社内にいなければ、一時的に社外の講師育成の専門家を使うことをおすすめします。講師には、プレゼンテーション、ファシリテーション、研修デザイン、研修運営という4つのスキルが必要になります。講師育成のトレーナーが講師経験者であれば、ひと通りのスキルは教えられます。しかし、講師には教え方のスキルも必要です。単に講師経験者ということだけではなく、教える人のレベルも考えて、社内講師と講師育成者を決めます。

 

(3) Whom(だれを育成するのか)
社内講師はだれでもできます。ただしそれは、それなりに計画された育成計画と実行するための育成担当者(社内、社外)がいればのことです。それでは、だれが社内講師に適任なのでしょうか。よくある事例としては、実務スキルを教える人の場合、その実務の経験があり、かつ実務レベルの高い人を社内講師に選んでしまうことがあげられます。しかし、スポーツ界において、優れた成績を残した選手が優れたコーチになるとは限らないように、社内講師も実務経験があり、その能力が高いからといって、優れた講師になるとはいえないのが実情です。そのため、社内から講師を選抜するには、事前に講師要件を決めておくことがポイントになります。詳しくは、次回第2回の「社内講師を発掘する」で説明します。このような要件を定義してから、社内で講師候補を決める計画をつくります。

 

(4) When(いつからいつまで育成するのか)
社内講師の育成をいつから開始するか、どのくらいの時間が必要なのかは、それぞれの組織状況で異なり、決まりはありません。社内講師のトレーナーがいない場合は、外部の講師育成セミナーに参加して学ぶことが一般的です。専門家による情報提供と、実際に講師体験や個別クリニックを通じて、1日から数日間のセミナーで学ぶプログラムは多数存在します。しかし研修講師という仕事は、実務経験を重ねながらスキルを向上させることによって、参加者への研修効果が向上していく仕事です。したがって、定期的にサポートする仕組みが講師育成のポイントとなります。極端にいえば、講師として仕事をしている期間すべてが育成期間、ともいえます。米国には、プロフェッショナルの研修講師を育成する専門機関が、いくつか存在します。そこでは、講師が専門家として一人前とみなされる目安は、1時間の講義を行うのに30 〜50 時間の講義練習と実際の講義経験が必要とされています。この目安を最大としても、実際に安定したレベルの社内講師がいる企業では、3〜5時間程度の講義の場合、自主練習と研修トレーナーがついた練習を15 〜30 時間くらいは行っています。さらに、新たに研修コンテンツを設計・開発する場合には、別途、知識教育が必要となるでしょう。

 

(5) What(何を教育するのか)
社内講師には、何を教育すればよいのでしょうか。一般的には、前述のとおり、プレゼンテーションスキル、ファシリテーションスキル、研修デザイン、研修の運営スキル、が必要とされます。一方、米国を中心に世界70 か国に会員をもつ人材開発組織であるATD(The Association for Talent Development)では、人材開発担当者に求められる必要要件を6つの基本要件で整理しています。これは、人材開発担当者という範囲で整理しているため、研修講師とぴったり重なるものではありませんが、社内講師の業務範囲は企業によってそれぞれ領域が異なるため、どのスキルが必要か、参考になるでしょう。
・ ビジネススキル
・ グローバルマインドセット
・ 関係業界の知識
・ 対人関係スキル
・ パーソナルスキル
・ 情報技術リテラシー
なお、それぞれのスキルの詳細は、第6回「社内講師の質を高める」で取り上げる予定です。

 

(6) How(どうやって育成するのか)
はじめて自社内で講師を育成するという場合、何をどうやって育成すればいいのか、わからないと思います。いきなり自前で育成するのは、時間がかかるわりに効果が低いと予想されます。一度は外部の専門的な教育を受けてから、内製化するほうがいいでしょう。外部セミナーなどで実施されている一般的な講師育成の方法は、プレゼンテーションスキルやファシリテーションスキルの手法を講義形式で教えたあとに、受講者によるデモ講義を行い、その場でコメントしたり、動画で振り返りながらアドバイスしたりするものです。
一方、社内講師トレーナーがいる場合は、最初に見本講義を行い、その後にトレーニーとなる講師が講義をしてみて、講師トレーナーがオブザーブしながらOJT を行う方法が一般的です。さらに、バディ制度やペア・ファシリテーションなど、社内講師と講師育成トレーナーとが一緒に働いているからこその手法もあります。自社の状況に合った手法を計画してください。

 

次回は、「社内講師を発掘する」について取り上げます。

 

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