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2018.10.16

「企業と人財」連載 第2回 社内講師を発掘する


2018年5月号表紙
「企業と人材(産労総合研究所)」2018年5月号掲載
TRAIN THE TRAINER Mini Guide 社内でプロ講師を育てるトラの巻 第2回 社内講師を発掘する 

 

社内講師の発掘・体制整備の3つのポイント
今回は、社内から講師を発掘する方法について解説します。社内に人材教育専任の講師を置く場合と、他業務と兼任の場合があります。どちらの場合でも、人材教育を内製化するためには、だれを教育担当者に選定するかが教育効果に影響しますので、計画的に進めることが必要です。厚生労働省の「能力開発基本調査」(2016 年度)によると、正社員に対する教育訓練の実施方法の方針については、「社内」を重視するか、それに近い企業は61.8%、一方「外部委託・アウトソーシング」を重視するか、それに近い企業は37.1% でした。また、正社員以外に対する教育訓練の実施方法の方針については、「社内」を重視するか、それに近い企業は72.9%、「外部委託・アウトソーシング」を重視するか、それに近い企業は23.6% でした。さらに同調査では、72.9% の企業が「人材育成に関して何らかの問題がある」と回答しています。問題点の内訳をみると、53.4% が「指導する人材が不足している」という結果でした(図表1)。このように、社内講師を重視する一方で、社内講師が不足している企業が多いことがわかります。そこで、社内で人材を発掘して、教育を行う体制を整えるためのポイントを3つに整理してみました。

 

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なぜ社内講師が必要なのか
第1のポイントは、「なぜ社内講師にするほうがよいのか」を、社内で明確にすることです。厚生労働省の調査では、社内講師重視の傾向が高いことがわかります。その一方、社外リソースをうまく活用している企業もあります。このような組織は、社内で教育を行う場合と、社外で教育を行う場合のメリットを理解したうえで対応しています。図表2をご覧ください。社内重視、社外重視のいずれにも、それぞれメリットと課題があります。したがって、社内から選抜した社内講師を中心とした教育体制にするためには、メリットと課題を勘案して、「なぜ社内で行うのか」という目的を明確にする必要があります。ここでは、実際に私がコンサルテーションを行った企業の例を紹介しましょう。これらの企業は、もともと外部委託重視で教育研修を行っていたのですが、社内講師の必要性が出てきたため、以下のような目的を掲げて、内製化を行いました。いずれの場合も、社内講師にする目的がはっきりしていることに着目してください。

 

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A 社: 経験の短い社員が多くなり、全社で理念の浸透を徹底することになった。そのため理念を自分の言葉で伝えられる、経験の長い社員を選抜する。
B 社: 今後の成長には自社のビジネスモデルを理解して、成功も失敗も共有できる組織にしたい。そのため、社内事例を共有できる仕組みをつくりたい。
C 社: 人材育成担当者を経験した人材は、現場に配置されると人材教育に力を入れ、実績を上げる傾向がある。そのため、教育部門を1年程度で定期的に入れ替える仕組みにする。

 

社内講師中心の体制にするかどうかは、一般的には外部に委託するとコストがどのくらいかかるのか、社内にこの研修をできる人がいるのか、という観点から判断することが多いと思います。たしかに短期的には、このような判断が必要です。一方、上記事例のような目的は、根本的な教育の質の向上や組織目標に沿ったものであり、長期的な視点に立っています。したがって社内で講師を育成し、長期的な仕組みとして研修を内製化していくためにも、なぜ社内講師が必要なのか目的を明確にすることが重要になります。

 

どのような人材が社内講師に向くのか

第2のポイントは、「社内講師となる人をどのような基準で選定するか」です。講師を社内でみつけようとすると、どのような人材が社内講師に向くのか、適性を考える必要があります。よくある例として、「プレゼンの上手な人」、「話のうまい人」、「テーマとなるスキルをもつベテラン」といったものがあげられます。このような判断基準は、現状もっているスキルが研修に活かせるのではないかと想定されているのだと思われます。これらのスキルはもっていることに越したことはありませんが、講師になるうえで最も重視されるのは、講義におけるトレーニングスキルです。 研修では、「本人の行動をよりよく変えることによって実務成果を取る」という効果性が求められます。現場でどんなに高いスキルや経験をもっていても、研修の場で効果的なトレーニングスキルを発揮できない人では、社内講師には向きません。効果的な研修を行うことができていない残念な講師は、次のようなタイプです。

 

・ 上から目線や強制感を感じさせるタイプ
・ 参加者が気づくほど講師の緊張が伝わるタイプ
・ 話は面白いが内容がない話が多いタイプ
・ 実務や業務に結びつかない理論や理想の話が多いタイプ
・ 話が長くて理解が追いつかないほど多くの情報を伝えようとするタイプ

 

このような講師は、典型的な残念な講師タイプです。残念とは、参加者がせっかく学ぶ機会が与えられたのに効果的に学ぶことができなくなってしまうため残念だという意味です。学校教育などとは異なり、成人特有の学び方の特徴をとらえた成人学習理論(アダルトラーニング)の考え方では、このようなタイプの講師では教育効果を下げてしまいます。講師トレーニングや成人学習理論については次回3回目で詳しく説明します。それでは、効果的な育成ができる講師の適性について説明します。職種の適性を判断する場合、「能力」、「行動」、「思考」で判断することができます。

 

(1) 能力
能力には知識も含みますが、発揮能力と基礎能力があります。プレゼンテーションの発揮能力は、実際にプレゼンテーションを行っている状況を見て、「わかりやすい話をする」、「質問に関して的確な返答である」といったことから把握できます。一方、わかりやすく話したり、的確な返答をしたりするには、論理的に考えて伝えるロジカルシンキングや、ロジカルスピーチなどの能力が必要です。これが基礎能力です。講師に必要な能力はそのほかにも、ファシリテーションスキル、ID(インストラクショナルデザイン)スキル、業務知識などがあります。こうした能力は、育成することが十分可能です。したがって、社内講師の発掘にあたっては、能力をもっていればよいですが、もっていなくても大きな問題はないと考えます。

 

(2) 行動
行動とは、言動も含めて、日々の業務のなかでどのような仕事のやり方をしているのかを評価して、どのような仕事に向くのかという視点です。研修講師の場合、業務を遂行しながら常に人を育成しているということが重要です。どんなに経験や専門性があっても、自分だけで仕事を行っている人より、自分よりできない人に教育をして周囲をサポートできる人は、育成に関するモチベーションが高い人だといえます。また、経験したことを振り返り(内省)、自分なりのやり方を考えて(概念化)、行動する。このように経験、内省、概念化、行動とサイクルをまわすことができる人は、自己成長ができるタイプです。これは経験学習といわれる考え方です。教育にかかわる人は、現状に満足するだけではなく、常に新たなことを教え、自己成長できる人材が適職だと考えます。人材を育成している、経験学習を行っているなどは研修担当者の行動としてふさわしいと思います。

 

(3) 思考
行動を促す要因として、思考や性格があります。思考のタイプや性格を分析する方法は多数あります。ここでは、人の強みに着目した特徴の分類を用いて研修講師に向く思考の特徴を7つ選びました。
① コミュニケーション:人前で話をしたり、進行役を務めたりする能力に長けている。
② 包含:「もっと輪を広げよう」という考えを有する傾向にある。
③ 成長促進:他人の潜在的な可能性を見抜く力に長けている。
④ 学習欲:さらなる知識を獲得することや新しいスキルを得ることに重きを置く。
⑤ 共感性:すべての人に対して「慈しみの感情」をもって接する。
⑥ 公平性:地位とは関係なく人々を平等に扱うべきだと考える。
⑦ ポジティブ:どんな状況においても、人や物事のポジティブな面を探そうとする。

 

これらの特徴については、米国ギャラップ社のストレングス・ファインダーや、ポジティブ心理学のセリグマンらが開発した強みの分類「VIA-IS」の分析などが詳しく説明していますので、参考にしてください。

 

どのような仕事を行うのか

第3のポイントとして、「社内講師にどのような仕事をしてもらうか」を考える必要があります。社内で人材を発掘して、社内講師を行う体制を整えるためには、どのような業務や仕事を社内講師に行わせるのか役割や責任を整理することが必要です。社内講師の仕事というと、単に社内の専門研修を行うだけというイメージがあるかもしれません。しかし、社内講師には、研修教材の開発から研修開催、事後評価などの業務があります。企業によって、組織の規模や教育担当の責任範囲はさまざまです。ここでは、役割と責任をどのように整理すればよいのか、教育設計を行う際のステップであるADDIE(アディ)モデルを使って説明します。これは、分析(Analysis)、設計(Design)、開(Development)、実施(Implementation)、評価(Evaluation)の5つの頭文字をとって、ADDIE モデルと呼ばれます。

 

① 分析(Analysis)
社内講師が研修教材を開発する場合は、教えたいことを教材にするだけでなく、研修対象者がどのような内容を知りたいのか、学びたいのかの把握が重要です。分析とは、対象者のニーズを把握することです。研修講師が分析からかかわることは少ないと思いますが、研修効果を上げるためには、研修参加者の背景、スキル、特徴を把握することが必要です。そのために、分析の役割を、社内講師の業務に入れることもあります。

 

② 設計(Development)
研修講師が研修教材を開発するとき、いきなりパワーポイントや資料を作るのではなく、基本的な教材設計や開催のための計画のことを設計といいます。たとえば、研修目的や、講義内容、講義手法、募集方法や会場準備、開催までのスケジュール、評価方法など教育効果を最大にするための計画のことです。このように、設計段階からかかわることで効果的な教材開発ができます。教材開発を行う場合の社内講師には、設計の役割が必要です。

 

③ 開発(Development)
教材開発には、講義、ワークショップ、プログラム、チェックリスト、資料作成などさまざまな手法、教材があります。さらに今後は、デジタル教材も多くなるでしょう。社内講師に教材開発を担当してもらうためには、効果的に教材を作るための知識やスキルをもっていることが重要です。一人で作成する教材は、内容に偏りや思い込み、漏れがあることが予想されます。このようなことを防ぐために、複数メンバーで作成するような体制も考える必要があります。

 

④ 実施(Implementation)
講義やワークショップを開催する際、研修講師の役割と責任は、研修効果を最大化するため、研修参加者や研修教材の内容について把握していることを前提として、効果的なプレゼンテーションやファシリテーションを行うことです。研修会場のレイアウトや会場準備という準備業務、
管理業務も含まれますので、複数の担当者で行う場合は、役割を明確にします。

 

⑤ 評価(Evaluation)
研修評価とは、アンケートを行うことだけでなく、研修参加者が業務に戻ったあとにインタビューを行ったり、上司のアンケートやインタビュー調査を行ったりする業務があります。研修の評価をどこまで社内講師の責任とするのかは、ADDIE モデルの何の役割を担うのかによって異なります。少なくても評価分析までは社内講師の役割と責任に入れるとよいでしょう。

 

 次回は、「社内講師の育成」について取り上げます。

 

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