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2018.11.13

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「企業と人財」連載 第5回 社内講師のチームづくり


2018年8月号表紙
「企業と人材(産労総合研究所)」2018年8月号掲載
TRAIN THE TRAINER Mini Guide 社内でプロ講師を育てるトラの巻 第5回 社内講師のチームづくり 

 

教育組織の4つのタイプ
ここまでの連載で、社内講師が行う基本的な仕事や、そのために必要な能力について紹介してきました。今回は、社内講師の組織をどうつくるかについて、ポイントをまとめてみます。私自身は、日本マクドナルドの教育機関(企業内大学)の責任者として、社内講師の組織づくりを行った経験があります。その後もコンサルタントとして、さまざまな企業の教育部門立上げを支援してきました。そうした経験から、企業の教育組織のあり方を、以下の4タイプに分けて説明したいと思います(図表1)。

 

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① 外注中心・兼任講師体制タイプ
A社は、基本的に「人材育成は上司の責任」という考え方でした。従業員は数百人規模で、人事部が教育を行い、教育専門の部門をつくる予定はありませんでした。そのため、新入社員教育や専門的な教育が必要になったときに、人事部が外部の研修会社を探して、その都度、研修を行っていました。しかし、人材がなかなか成長しないことも課題となっていて、人事部に人材教育の担当者を置き、社内教育の戦略を構築するところからスタートし、教育の仕組みをつくることになりました。

 

② 内製中心・兼任講師体制タイプ
B社では、教育は内製中心で実施していました。人事部が、社内にいる専門家や経験者を指名し、必要なときに講師を依頼して、研修を行っていました。しかし、講師役となる社員は教育が専門ではないので、教える内容や教え方については課題がありました。また、講義内容は講師の経験や知識に依存するため、属人的な教育になりがちなことも課題でした。そのため、外部の研修会社を使いつつ、社内では講師役を務める社員の教育も並行して行う必要がありました。

 

③ 外注中心・専任講師体制タイプ
C社には教育部門があり、教育制度をつくって、社内の専任講師が中心となって研修を実施していました。上位職の教育や専門性の高い教育など、比較的専門性が必要な教育は、外部の研修会社を使うようにしていました。現在の課題は、教育部門の業務負荷が大きくなっていることです。外部の専門家を活用するための専門性にも課題があり、教育部門のスタッフ教育の必要性も出てきました。

 

④ 内製中心・専任講師体制タイプ
D社も教育部門があり、教育制度をつくり、社内講師中心に研修を実施していました。社内講師の研修に関する専門性は高く、研修満足度も高い状況でした。その反面、外部情報や教育の専門的な考え方が入りにくいことが課題でした。また、現場教育は問題なく行われていたのですが、上位職や専門職の教育は社内講師では対応できないため、外部講師と社内講師を組み合わせて行うことが必要でした。

 

日本マクドナルドは以前から、現場の人材育成がシステム化されており、教育が徹底されていることで知られていました。「ハンバーガー大学」と呼ばれる教育の専門機関があり、教育の内製化が進んでいる④のタイプでした。米国マクドナルドも、60 年前の設立間もない時期から店長教育の部門をつくり、社内講師中心に教育を行ってきました。日本に出店した際も、ハンバーガー大学を立ち上げ、最初から専任者を置きました。このような教育専門部門を、企業内大学(コーポレートユニバーシティ)と呼びます。企業内大学は1956 年の米国GE 社に始まり、マクドナルド、ディズニー、モトローラーと続きます。現在は教育専任部門の象徴となっていて、多くの企業が取り入れています。どのような種類の教育に特化した専門部門であっても、はじめは一人から教育の仕組みづくりがはじまり、社内教育の担当者を育て、組織づくりが行われてきたのです。

 

社内教育専任者の組織化
次に、教育部門を立ち上げた1人目を第1世代とし、最終的に、教育部門として機能するまでを第5世代として、どのような人員により組織がつくられるのか、そして、各世代で何が課題となるかを、一般的な事例で説明します。今回は、社内講師のチームづくりがテーマですので、ここでは社内講師を中心とした事例にしぼって説明します。

 

(1)第1世代
企業の組織が大きくなってくると、それぞれの上司に任せる育成だけではなく、従業員の教育に特化した仕組みが必要となります。一般的には、マネジメントからの要請を受けて、人事部や総務部などが教育について検討を始めます。よくあるアプローチは、対象者となる従業員を決めてから、担当者が研修を考えるというやり方です。この場合、課題になるのは次のような要素です。
・ 部内に教育を検討する担当者ができる。
・ 研修を始めるにあたり、社内で行うか、外部で行うか検討する。
・ 社内講師がいない場合、自分で行うか、外部で研修を探す。
・ 外部研修を行う場合は、初めて行うため社内の合意形成に時間がかかる。

 

そして、ポイントは3つあります。
⒜ 一時的な教育にならないように、研修実施後のフィードバックを行う。
⒝ 社内講師を依頼する場合、対象者のニーズと教育内容を確認しておく。
⒞ 社内講師、外部講師の場合も、講義に参加して参加者の視点で確認する。

 

(2)第2世代
担当者が一人で講師を行ったり、外部講師による研修が行われたりするようになり、研修による教育が理解されるようになると、教育の必要性がある部門や対象者から、教育課題や教育ニーズが出されるようになります。この場合、教育課題を探求すればするほど、さまざまな教育全体のニーズが出てきます。課題となる点は次のようなものとなります。
・ 対象者をだれにするのか、優先順位の検討が必要になる。
・ 社内講師が研修を行う場合、研修コンテンツも社内でつくる必要がある。
・ 外部研修の情報が入るようになると、マッチする研修を選択する必要が出る。
・ 研修の数が増えてきて、全体の研修計画を立てることが必要になる。

 

ここもポイントは3つです。
⒜ 教育担当者として行う業務を整理して、明確にしておく。
⒝ 自分で担当しなければならない研修は内容を絞る。
⒞ 外部研修の内容を社内の優先すべき内容に絞る。

 

(3)第3世代
教育担当者が判断して行う教育から、教育担当部門という専門チームとして、組織的に活動を始める規模になると、会社としての人材教育課題をとらえて、中長期にわたる教育戦略を策定することが必要になります。また、担当者には社内教育の専門部門としてミッションや専門性が期待されるようになります。課題点としては4 つあげられます。
・ 従業員教育全体の教育体系構築が必要になる。
・ 人材教育にかかわる業務が多岐にわたり、業務が複雑で効率が悪くなる。
・ 研修開催のための準備業務の負荷が高くなる。
・ 教育部門としての人材教育の評価を求められる。

 

そして、第3世代のポイントは、次のとおりです。
⒜ 教育担当チームが行う業務を洗い出し業務整理をしておく。
⒝ 社内講師と外部講師の行う教育内容を明確に分類する。
⒞ 教育効果について検討する。

 

(4)第4世代
人材教育を専任として運営する組織になり、研修を専門に行う講師と教材を作成する担当者、さらに研修にかかわる業務が発生して、部門としての成果が求められるようになります。そのため、個々の担当者の専門性も高める必要がでてきて、教育部門スタッフへの教育も適時行い、人材教育にかかわる最新情報も必要になります。第4世代では、次のような課題が生じてきます。
・ 講師の質的な評価が求められる。
・ 研修開発や研修開催、関連業務が増加する。
・ 研修開催以外の、OJT やマニュアル、教材の検討が始まる。
・ 研修部門の専門性や業績を管理する必要性が生じる。

 

ポイントとしては次の3つです。
⒜ 人材教育専門部門としての戦略を構築する。
⒝ 人材教育体系やシステム化を社内に徹底させる。
⒞ 社内講師の専門性を向上させる教育を行う。

 

(5)第5世代
人材教育専門部門として独立して、人材教育に関連する中長期の責任を担う部門に発展していきます。評価制度やキャリア開発、後継者育成などの人事関連の制度と教育との連携が必要となり、組織開発や事業方針、企業理念に影響を与える部門として、統合的に人材教育を支援しながら、経営戦略の部分を担う戦略部門へと進化していきます。ここでの課題は次のようになるでしょう。
・ 短期・長期の人材教育課題の改善を求められる。
・ 他部門との連携や関連する課題に対応していく。
・ より効果的、効率的な教育を求められる。
・ 事業戦略との関連が求められる。

 

ポイントとしては以下の3つです。
⒜ 組織戦略と連動する人材教育戦略を構築する。
⒝ 人材教育組織の効率的な運営のための専門性を向上させる。
⒞ 外部の人材教育情報を収集して社内の人材教育戦略に活かす。

 

このように、1人で研修担当をしていた第1世代から、経営戦略を実践する部門として人材教育の専門部門となる第5世代まで、段階的に進化していきます。この進化過程は、私が長期にわたりコンサルティングしてきた企業で実際にみられたものです。常に第1世代から始まるわけではありませんが、個々の企業の現状に合わせてみると、近い課題があると思います。

 

社内講師組織の業務分担
次に、社内の教育担当者が自ら講師役となって研修を行う、または外部講師を使って開催するという場合に、どのような業務を行うのか、一般的な実務を図表2 にまとめました。さらに、ここから講師が2 人、3 人と増えていき、やがて講師のチームができたときに、研修実務の範囲がどのように広がり、また、それをどう分担していくのかについても、ここにまとめてあります。最後にもう1つ。社内講師は、単に上手に研修を行う人のことではありません。研修の質は教育効果として期待されます。教育効果を高めるためには、「研修テクニック」、「教育コンテンツ」、「教育の仕組み」の3 点セットが必要です。まず「研修テクニック」には、プレゼンテーションスキルやファシリテーションをはじめ、デリバリーに関する基礎的なテクニックが必要で、研修担当者への教育が必要です。

 

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2つめの「教育コンテンツ」については、研修対象者のニーズを把握することから始め、事業方針や組織ニーズを考慮して、教育効果を高めるような教材作成のスキルが必要です。そして最後の「教育の仕組み」では、研修がその場かぎりのイベントにならないように、研修前の準備や研修後の評価の仕組み、さらに上司や会社で研修効果が持続して実務で活かされる仕組みが必要だということです。このように、3点セットを効果的に運用していくには、研修を担当する部門の組織的な支援が重要です。

 

次回はいよいよ最終回です。「社内講師の質を高める」について取り上げます。

 

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