社長ブログ

Blog

2018.10.23

Blog

「企業と人財」連載 第3回 社内講師を育成する


2018年6月号表紙
「企業と人材(産労総合研究所)」2018年6月号掲載
TRAIN THE TRAINER Mini Guide 社内でプロ講師を育てるトラの巻 第3回 社内講師を育成する発掘する

 

社内講師育成の代表的なプログラム
今回は、社内講師を育成するための基本的な「育成プログラム」と「育成の仕組み」について説明します。社内講師を育成するプログラムは、多くはありません。ここでは、代表的なプログラムとして、「プレゼンテーションスキル」と「ファシリテーションスキル」に特化したプログラムを紹介します。内容としては、話し方、動き方、アイコンタクトなどの話す技術や、参加者を巻き込む技術に関するものが一般的です。さらに、講義を行うための準備やあがらないためのコツなど、研修前後の心得に関する内容もあります。ここで押さえておきたいことは、講師は何のために存在するのかということです。講師は、人材教育を効果的に推進する人です。そして、効果的な人材教育には「良い教材」、「良い仕組み」、「良い環境」、「良いトレーナー」の4つの要素が必要です(図表1)。社内であっても社外であっても、より高い教育効果を上げるには、この4つの要素について理解しておくことが重要です。したがって、講師育成のプログラムは、「プレゼンテーションスキル」と「ファシリテーションスキル」だけではありません。世界的な人材開発支援組織ATD では、人材開発のプロフェッショナルを認定するCPLP(Certified Professional of Learning and Performance)という公式資格があります。この認定を受けるための学習項目には、前述の4つの要素がすべて含まれています。すべての項目が研修講師に必要なわけではありませんが、CPLP の学習項目から、社内講師の学習プログラムに参考になる項目をまとめると、以下のようになります(注)。

 

スクリーンショット 2018-10-23 17.11.37

 

(1) 学習理論
・ 成人学習に関する基本理論
子どもを対象にした「教える教育モデル(ペタゴジー)」と区別して、成人を対象にした「主体的な学びを支援するモデル(アンドラゴジー)」に関する理論を理解することで、学習効果の高い、教材作成や講義手法に役立ちます。
・ 学習記憶に関する基本理論
 人は記憶したことをどのくらいのペースで忘れるのか(忘却曲線)、どのように記憶できるのかなど、記憶の特徴に関する考え方を理解することで、伝えたことが忘れにくくなり活用してもらえるようになります。
・ 学習動機に関する基本理論
基本的なモチベーションに関する理論を理解して、人が学習するときに、どのような進め方をすればモチベーションが向上するのか、教材作成や講義のやり方を学びます。

 

(2) 学習環境設計
・ 学習スタイルと学習様式
伝えたいことを教材にするだけではなく、学びたいことを教材にする学習者中心の設計にするため、学習者に合った学習スタイルや学習者の特性を分析して、効果的に提供する手法について学びます。
・ レイアウト
研修やワークショップを行う際、学習者の集中度や理解を高めるために、学習教材や学習目的に応じた効果的なレイアウトについて学びます。
・ 設備環境
学習者にとって、学習する設備環境は、学習効果に直接影響します。空調、音響、照明、教材を補完するツール、その他の必要準備備品など、学習環境を最適にするための設備環境について学びます。

 

(3) 学習設計(ID)理論
・ 学習設計の基本理論
教材作成や、研修の構成を行う過程で、人はどのように新しい知識や技能を習得するのかについて理解し、教材の組み立て方、説明方法を工夫し、学習目的を達成する教材の構成について学びます。
・ 設計プロセスの基本
教材作成や、研修やワークショップの構成を行うために、学習ニーズのアセスメント方法や基本的な設計プロセスであるADDIE(アディ)モデルを代表とする設計プロセスを理解して、学習効果の高い教材を作る手順について学びます。
・ OJT(オンザジョブトレーニング)
経験学習理論の原則について理解し、現場で業務を教える際に活用して、業務遂行するための手順や基準を、効果的に教育するための手法について学びます。

 

(4) 学習管理
・ 学習管理プロセス
研修やワークショップ開催の参加者募集、開催準備、開催時の業務、事後の参加者管理まで、一連の業務プロセスと基本的な業務管理について理解します。
・ 学習評価の基本理論
カークパトリックやジャック・フィリップスの段階別学習評価、学習効果の把握のための基本的な考え方、評価手法について学びます。
・ 事前学習と事後学習
研修やワークショップにおいて、参加者が事前と事後で、何を準備したり体験すれば、学習効果が最大化できるのかについて学びます。

 

(5) プレゼンテーションスキル
・ プレゼンテーションの準備
プレゼンテーションを行うまでに、準備すべきこととして、目的やコンテンツの理解、参加者の特性把握があります。そのうえで、リハーサルの重要性や、自身の精神的な心構えなど、事前にすべきことについて整理して理解します。
・ デリバリースキル
プレゼンテーションを行ううえで基本となる「声のコントロール(発声、抑揚、大きさ、スピード、擬音)」、「アイコンタクト」、「効果的な歩き方」、「ボディアクション」などのスキルと、設備・機器の効果的な使い方について学びます。
・ 参加者への対応
効果的なプレゼンテーションを行ううえで、事前に参加者ニーズや特性を把握する方法や、参加者の規模に応じて、自身の緊張感をコントロールする手法、参加者の質問や反応に対するコントロール方法などについて学びます。

 

(6) ファシリテーションスキル
・ 役割認識
参加者同士が対話や体験を通じて、相互作用によって創造したり学習したりすることを促進するファシリテーターの役割や目的を理解して、プレゼンターとファシリテーターの役割や活動の違いについて学びます。
・ 巻き込み方
参加者に主体的に参加してもらうための、会場レイアウトの特徴理解、時間管理、場の管理について学びます。また、オープニングやエンディングの考え方、巻き込み手法、質問や返答手法など基本的なテクニックについて学びます。
・ 障害に対応する
研修やワークショップでは、参加者からの質問や態度により進行が妨害されたり、設備や機器のトラブルなど、不測の事態が発生して、学習効果を下げることが発生したりすることがあります。このような事態に対応するための基本的な対応方法について学びます。

 

(7) その他
・ ラーニングテクノロジーの基本
従来から活用されている、e ラーニングのようなITテクノロジーを使った学習支援環境は、今後、さらに進化していきます。個人の学習環境を支援するツールやソフトの進化について、基本的な情報を把握しておくことが、今後の学習に必要です。
・ 法的倫理的問題
教育の場において、トレーナーの提供する情報はもちろんのこと、姿勢や考え方なども、参加者へ大きな影響を与えます。働く環境や事業環境にかかわる、法的、倫理的な基本的情報と最新情報について、常に更新して把握することが必要です。これらの項目は、個人で情報を収集して学習することもできますが、実務的な内容が多く、すべての項目で一般的に体系化された学習プログラムはあまり多くありません。専門家の支援や専門情報で学習することも可能ですが、ここでは、組織内で社内講師を育成する仕組みを紹介します。

 

社内で講師を育成するための仕組み
(1) バディ制度
バディとは、相棒、仲間という意味ですが、講師育成でも活用できます。研修講師は、プレゼンテーションやファシリテーションの回数を行えば行うほど慣れてきますので、不要な緊張は減り、話し方もスムーズになることは事実です。しかし、講師のレベルが高いか低いか、研修やファシリテーションの効果が高いか低いかは、第三者が評価します。バディとは、講師の評価をしたり、プレゼンテーションのサポートをしたりする相棒(ペア)のことです。バディとなる人は、一緒にプレゼンテーションやファシリテーションを行うことが前提ですが、必ずしも相手より優れたスキルをもっている必要はありません。また、トレーナーである必要もなく、あくまでも、実務の現場で、公式的な仕組みとして「支援」、「助言」、「評価」を行う役割を担います。バディの3つの役割は、以下のとおりとなります。
支援: ペア講師の研修やワークショップが円滑に進められるように、必要に応じて介入したり、共同作業をしたりする。
助言: 実務現場を見て、プレゼンテーションやファシリテーションで気づいたこと、改善点などを客観的に観察して助言する。
評価: プレゼンテーションやファシリテーションのスキルや、進行状況について、チェックリストを使って、客観的な評価を行う。

 

(2) ペアファシリテーション
通常、多くのプレゼンテーションやファシリテーションは、1人で行うことが一般的です。そのため、
トレーナーとなる人に事前に実務を教えてもらうか、練習をして実務に臨み、助言や評価を受けながら経験を積んでいくのが一般的です。ペアファシリテーションとは、一言でいうと実務を行いながらのOJTです。トレーナーとトレーニーとなる講師が一緒に、プレゼンテーション/ファシリ
テーションを行うトレーニング方法です。
ステップ1: トレーニーとなる講師は、事前に講義内容を学んだうえで、練習をします。
ステップ2: トレーニー講師がメイン講師、トレーナー講師がサブ講師となり、役割を決めます。
ステップ3: 講義で補足が必要な場合、トレーナー講師が介入して、講義のレベルを補完しながら進行します。
ステップ4: 終了後に必要な助言をします。

 

この手順を繰り返し、トレーナーが1人でできる基準に達したと認められた場合、1人で講義を行うようにさせます。ペアファシリテーションは、トレーナー講師にある程度のスキルが必要です。参加者からみて、不自然なプレゼンテーション/ファシリテーションに思われると逆効果です。そのため、自然な形で、メイン講師の進行に介入したり支援するテクニックが必要です。

 

(3) リレー認定制度
教える役割の人は、知識を習得することで学ぶだけではなく、覚えたことを教えることで学びます。認定制度とは、学んだことを実行して認定された人が、次は認定する側になって、その認定された人が、さらに認定していくリレー方式のことです。たとえば、3人(A、B、C)が認定をリレーしていく場合、図表2のようなステップとなります。このステップを何度か繰り返しますが、認定のレベルや仕組みの精度を維持するためには、定期的にAが抜き打ちでB やC が認定した認定者を確認するようにします。また、認定のためには、認定用のチェックリストを使うなど認定レベルの標準化が必要です。こうした、社内で講師を育成する代表的な仕組みとして、今回は「バディ制度」、「ペアファシリテーション」、「リレー認定制度」を紹介しました。これらの仕組みで教育するためには、前提条件として、社内にトレーナーとなる一定の基準をもっている講師がいることが必要です。もし、存在しない場合は、社内で育つまでは社外の専門家に教育を依頼するか、前述のような基本的カリキュラムを学習項目に入れている研修講師の公開コースを選び、育成すると良いでしょう。

 

スクリーンショット 2018-10-23 17.13.50

 

次回は、「社内講師を評価する」について取り上げます。

 

注: CPLP Learning System (Subscription)2015、The ATD Learning System is the official learning resource for individuals preparing for the CPLPcertification exam. より加工

 

「企業と人財」連載一覧はこちら

関連ブログ

お問い合わせ

Contact Us

Access

東京都千代田区紀尾井町3-12
紀尾井町ビル16F

  • 有楽町線 麹町駅

    2
  • 半蔵門線 半蔵門駅

    6
  • 南北線 永田町駅

    6
  • 丸の内線 赤坂見附駅

    8
  • 銀座線 赤坂見附駅

    8
  • JR線 四ツ谷駅

    10