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2018.12.18

「企業と人財」連載 第6回 社内講師の質を高める


2018年9月号表紙
「企業と人材(産労総合研究所)」2018年9月号掲載
TRAIN THE TRAINER Mini Guide 社内でプロ講師を育てるトラの巻 第6回 社内講師の質を高める 

 

プロ講師のレベルをめざす
「社内研修を自前で行いたい」という教育内製化に向けて、6回にわたり、社内講師を育てる方法や仕組みについて紹介してきました。最終回の今回は、社内講師の質を高めるポイントについてご紹介します。 社内講師が、外部のプロフェッショナル講師のレベルをめざすには、何を学べばよいのか、どのような仕組みが必要なのか、みていきましょう。社内講師を配置する目的は、企業により異なります。たとえば、「内製化を進めるため」、「社外講師ではできない教育をするため」、「もともと完全内製化の教育体制のため」などが考えられます。社内講師のレベルを引き上げようとするときにも、これらの目的によって、どのようなスキルを重視して育成するのか、アプローチが変わってきます。連載第4回(本誌7月号)で、社内講師を評価する際の30の評価項目について取り上げました。これらは、あくまでも社内講師としての基礎的スキルのまとめです。講師業を生業にしているプロフェッショナル講師なら対応できて当然というレベルのもので、社内講師であっても、意識してある程度の経験を積めば、できるようになります。したがって今回は、この評価項目を最低基準として、プロ講師としてより高い成果を上げるためのポイントをご紹介します。

 

CPLP は、ATD が認定する人材開発担当者のプロフェッショナル資格ですが、その資格取得講座ではデリバリー担当者のレベル確認をするチェックリストが使われています。図表1は、それを参考にして作成した、社内講師のレベルを確認するためのチェックリストです。チェックリストの項目をいつでも実行できていれば、一般的には、社内講師として講義を行うレベルとして問題はありません。しかし、社内講師がどんなに素晴らしいプレゼンテーションスキルやファシリテーションスキルをもっていたとしても、それだけで社内の人材開発が成功するわけではありません。社内講師だけでなく、人材開発担当者(部門)として担う役割があります。

 

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日本ではまだ、人材開発担当者の専門性や能力要件について標準化された公の基準はありませんが、グローバルレベルでみると、人材開発担当者の基準となるフレームがあります。米国に本部をもち、グローバルレベルで人材開発を支援するATDでは、人材開発担当者に必要な専門性やスキルを「ATD コンピテンシーモデル」として紹介しています(図表2)。

 

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このモデルでは、人材開発担当者が取り組むべき10の専門分野と、この分野の業務を行うための6つの能力要件が明確に表記されています。専門分野の1つがデリバリーですが、モデルをみると、右側の一番上が「パフォーマンス管理」となっています。パフォーマンスとは、人の行動によって得られる成果のことをいい、これを組織として求められている成果(経営目標、事業目標、ビジョンなど)と個人の成果を結びつけることを「パフォーマンス管理」といいます。人材開発においては、まず何のために人材開発を行うのか、どのような成果を期待するのかを明確にすることが重要であるため、専門分野のいちばん最初に記載されています。

 

2番目が「教育デザイン」です。これは、成果目標を明確にしたうえで、研修や育成プログラムを設計・開発するという意味があります。そのうえで、3番目にあるデリバリーを行います。これまで述べてきた社内講師の役割は、主にこの「デリバリー」となります。組織の成果と個人の成果を両立させる研修デザインを行うことを前提として、その効果を最大化させるようにデリバリーを行わなければなりません。

 

そして、デリバリーの手法の1つが、次の「ラーニング・テクノロジー」です。これからは、学習を促進させるテクノロジーの支援が必須です。近年、デリバリーもネットワークを活用したものに移行してきており、その傾向はさらに拡大することが予想されます。そして、「学習評価」をどのように行うのかにも、専門性が必要となります。さらに「学習プログラム管理」、「統合的人材開発」は、学習を管理するための専門性、その次の「コーチング」は人材開発担当者だけでなく、組織全体で人材開発に必要な専門性となります。

 

「ナレッジ・マネジメント」は、成長する組織としてのインフラにより、社内外にある知見やノウハウを組織全体で活用することです。最後の「チェンジ・マネジメント」は、教育だけにかぎらず、組織を成長させるさまざまな変革に、柔軟に対応できる組織づくりのことをいいます。

 

人材開発担当者としての能力を磨く

このようにATD は、人材開発の担当者が扱うべき10の専門分野を推奨しています。つまり、デリバリーの専門性だけを磨くのではなく、人材問題全体を統合的に進めることが期待されているのです。それと同時に、このモデルでは、これら10 の専門性をさらに高めるためのものとて、6つの能力要件を明記しています。

 

(1) ビジネススキル
人材開発担当者として、マネジメントや従業員が抱えている人材開発に関するニーズを把握し、解決策を提案できる能力が必要です。そのためには、人材開発にかかわる基本的な知識を修得し、常に最新情報を学び続けなければなりません。人材開発の成果だけでなく、ビジネス全体の成果を高めるために、革新的な発想や最新技術にアンテナを張り、組織的な観点で事業成果に結びつく提案ができることが期待されます。社内講師の場合、自社のビジネス理解は必須ですが、刻々と変化するビジネス課題を、マネジメントレベルと現場レベルの両面から把握する習慣を身につけることが重要です。

 

(2) グローバル視点
人材開発担当者は、グローバルなものの見方、考え方をしなくてはなりません。「自分の会社はグローバル企業ではないので関係ない」ということはありません。情報は一瞬にして世界中をまわり、人びとは国境を越えて活躍しています。異なる文化や環境のなかで育った人たちと一緒に仕事や生活をする機会は、ますます広がります。人の成長にかかわる人材開発担当者は、異なる視点に敬意を示し、他社の考えをも活用する力が必要です。多様な視点を活用して自分のものの見方、考え方を拡張し、組織に貢献することが望まれます。これからは国の違いだけではなく、世代やジェンダーの違い、雇用形態の違いなどの多様性を受け入れ、活かす能力が期待されます。研修やセミナーにおいても、参加者の多様性が増すことが想定されます。多様性が視野を広げ、より学習効果の高い研修が実現する可能性も考えられます。社内講師による研修も同様で、いかにして多様な考え方を引き出せるかが重要になります。

 

(3) 関係業界知識
人材開発担当者にとって、人材開発に関する事柄の動向や最新情報の把握は必須ですが、自社に関連する業界の専門知識ももっていなければなりません。ただし近年は、この「業界」という分け方が曖昧になっていることも理解しておく必要があります。たとえば、コンビニエンスストアは、食品や簡便な日用品だけでなく、銀行や郵便の取次ぎをしたり、生活インフラ産業として機能を拡張させています。また、いわゆるネットショップは、デパート、スーパー、専門店で販売される、あらゆる商品をそろえています。とくに4次産業といわれる情報集約産業は、いままでの産業区分を越えて、あらゆる産業にかかわるようになりました。このような環境変化から、人材開発においても、いままでの業界区分で活躍できる人材の枠ではなく、業界を越えたものの見方、考え方ができる人材を支援しなくてはなりません。そのため人材開発担当者も、自社の業界にこだわらず、社会全体の動向に目を向ける必要があります。社内講師が、自社の業界構造を理解していることは必須です。経験値として知っているだけではなく、環境変化のなかでの最新情報と業界の今後の方向性についても自分の言葉で述べられることが必要です。

 

(4) 対人関係スキル
人材開発担当者は、マネジメントや従業員をはじめとするステークホルダーに対し、影響力を発揮できる能力が必要です。そのためには、効果的なコミュニケーションを行い、信頼関係を構築しなければなりません。とくに感情的知性が重要です。EQ(Emotional intelligence Quotient)の先駆者であるD . ゴールマンは、EQ は自己と他者の感情を知覚し、自分の感情をコントロールすることで、ベストを引き出す能力で、リーダーにとって非常に重要としました。社内講師の場合、参加者との利害関係があったり、感情的な部分が影響しやすいことも事実です。プロフェッショナルとして、相手の感情を理解したうえで、自身の感情をコントロールできることが必要です。

 

(5) パーソナルスキル
パーソナルスキルは、業務を遂行する際に必要とされる人間的側面のスキルとされることがあります。このモデルでとくに強調されているのは、「環境変化への柔軟性」と「自己啓発の模範となること」です。人材開発の仕事は、過去の経験や既存の知識に基づいた制度、手法にすることが一般的です。と同時に、もう1つの側面として、変革のために、激変する環境変化に柔軟に対応することも求められます。そのためには、常に自己啓発につとめ、自らが模範となる行動が必要です。社内講師が、教育を通して社内の人材に与える影響力は大きなものがあります。そのため、社内講師自身が、自己啓発によって得た知見や情報を、社内の人材にタイムリーに提供できるようにすることが必要です。

 

(6) テクノロジーリテラシー
情報技術(IT)というと、人材開発とは直接関連がないと考える担当者も多いようです。これからは、あらゆるものがネットにつながり(IoT)、人工知能(AI)によるディープラーニングや、ロボットを活用する社会になり、仕事や生活でどのように活かすかが課題となります。情報技術に関する基本的なスキルをもっている人と苦手な人の差が、仕事に影響するようになります。これまでにも、人事や教育の分野での情報技術活用例としては、e ラーニングやタレントマネジメントシステムなどがありましたが、HR テックといわれるHR とテクノロジーの融合も期待されています。人材開発担当者も、積極的にIT の活用に挑戦しなくてはなりません。このように、これからも社内、社外にかぎらず、テクノロジーの進化に対応した環境の激しい変化が予測されます。社内講師は、社内人材のIT リテラシーを把握し、自社に必要な学習に役立つテクノ
ロジーの活用を積極的に推奨していけるようにならなくてはいけません。

 

* これから先、働き方改革やAI、ロボット、100 年人生などの影響を、だれもが受けるようになっていくでしょう。学習の世界においても、それまでもっていたスキルを変えなくてはならないという「リスキル」と、いままで以上に磨いていかなければならないという「アップスキル」という考え方が必要となってきました。社内講師自身のもつスキルも、何がリスキルで、何がアップスキルになるのか、考えていくことが重要になってきます。

 

6回にわたって執筆してきたこのTRAIN THETRAINER Mini Guide を、読者の皆さまの社内講師育成に役立てていただければ幸いです。

 

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